にやっと笑った顔には覚えがあった。
捕えられる前、浩之の後ろの方で待機していた二人の男のうちの一人だ。俺が浩之に掴みかかったときも、隣で慌てて駆け寄ろうとしたもう一人の男を制止させ、面白そうに笑んでいた、あの――。
消えかける記憶の中で見たものは、浩之の腕の中でぐったりと伸し掛かった俺を、その腕の中から引き剥がし担ぎ上げた一人の男と、にやりと笑う男と、車で待機していた運転手の男の三人。――そして、泣き顔の浩之。
浩之は無事だろうか。
浩之の父親は無事に解放されただろうか。
自分の今の状況より、そのことの方が気がかりだった。
黙りこんで俯いている俺に、男はしゃがみこんで顔を覗き込んだ。
「金持ちも大変だなぁ。こんな目に遭っちゃってよ〜」
下品に笑うこの男の顔を、思いっきり蹴飛ばしたかった。
「俺を恨まないでくれよぉ?恨むなら自分のこの不幸な境遇を、生まれた家を恨むんだな」
げらげらとよりいっそう大きな声で笑う。
それでもまだ堪えなければ。
黙って捕らえられたのには重要な意味があるのだ。
「今、君のお父上に身代金の要求をしたところだよ。ククッ――まあ、御堂の大資本家の一族様には大した金でもないだろーけどなぁ?」
馬鹿にした物言いにも腹が立つ。
そこまで会社を大きくするのに、どれだけの労力を使っているかも知らないくせに。
まるで何もしないで金を手にしているかのように。
「俺は優しいから、金が手に入ったらすぐに解放してやるよ。……でも君、頭がよさそうだからなぁ。顔も見られちゃったし……そうだなぁ……少しその綺麗な顔に傷がついちゃったり、視覚や聴覚も悪くなっちゃうかもしれないけど、命まではとらないから安心しなよ」
殴りかかりそうになるが、鍛えられた精神のおかげで何とかまだ理性を保っていられる。
その代わりに鋭い目つきで睨んでやる。
その視線だけで人を殺せそうな孝彦の目に一瞬怯むが、男はそれを隠すように鼻で笑ってみせる。口先だけは達者なようだが、そんなに太い肝は持っていないようだ。
――少しはめてみるか。
- 2008/12/21(日) 07:10:12|
- 天使の羽が消える前に〜第15話〜
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